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「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)
「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)

動物園と水族館に年間170回以上通い続ける男がいる。野崎浩貴、通称「野崎くん」。彼の日常は「映像制作」「映画鑑賞」「生き物に会いに行くこと」の3つでほとんど構成されているという。彼は、動物園の何にそんなに惹かれたのだろうか──? 話を聞いてみると、達観したVOICEが彼の口からこぼれてきた。

「井の頭自然文化園はどうですか?」

取材場所を決めるメールのやりとりで、彼はこう打診をしてきた。取材前にも「動物園が好きな人」であることは分かっていたつもりだったが、当日、その予想を超える動物園への愛情に、取材班は驚くことになる。

「ミーアキャットの赤ちゃんが生まれたばかりですよね」
「もうすぐスタンプラリーの季節ですね。年明けも、干支めぐりスタンプラリーをやるんですか?」

動物たちの詳細な状況のみならず、園の催し物まで把握している彼。園のスタッフの方々も、どうやら彼の存在を知っているようだった。

野崎浩貴、通称「野崎くん」。フリーで映像制作などの仕事に携わりながら、年間170回も動物園に通うという彼は、一体、何を考えて生きているのだろうか。

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)
「ミーアキャットを見に行ってもいいですか? 生まれたばかりの赤ちゃんがいるはずなんです」


動物園に通い始めたのは、いつから?
「頻繁に通うようになったのは、大学を卒業した2011年からですね。就活がうまくいかなくて途中でやめちゃって、就職先が決まらないままに卒業したんです。その年は震災があったから大学の卒業式もなくなって、そのままスーッと、学生という肩書きだけが消えて。何もすることがなかった時に、友達にここ(井の頭自然文化園)をオススメしてもらったのがきっかけです」

なんでこんなにも通うように?
「当時、ゾウのはな子さん(※)がまだ生きていたんですが、はな子さんを初めて見たときに衝撃を受けたんですよね。なんというか、長く生きた者たちだけが持つ目をしていて、僕とは違う時間軸、いわゆる『生き物時間』を感じて……。それでなんとなく『また行きたいな』と思うようになって、年パスを買いました」

(※はな子さん……1949年にタイから来日した、戦後初のアジアゾウ。当初は上野動物園で暮らしていたが、7歳の時に井の頭自然文化園に移った。2016年5月26日、69歳で永眠)

行く動物園は、井の頭自然文化園が多い? それ以外も?
「全国のいろんな動物園に行きますよ。都内だと多摩動物公園が特に好きです。もう亡くなってしまったけれど、多摩にはジプシーさんという、当時世界最高齢のボルネオオランウータンがいたので。はな子さんとジプシーさんを拝みに行くのも、頻繁に通うようになった理由のひとつでした」

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)
動物をじっと見つめる野崎。ちゃんと一匹ずつ時間を取って会いたいため、「その日に会いに行く動物」を決めることが多いのだという

就職が思うように決まらなかった時、「このままでいいんだろうか」と焦りを感じていたという野崎。だが、はな子さんやジプシーさんをはじめとするさまざまな動物たちを見つめ、彼女たちと自分なりの対話をすることで、次第に「まあいっか」と肩の力を抜くことができるようになったという。


どうして「まあいっか」と思えるようになった?
「動物園の動物たちは、動物園という空間で、諦念とともに工夫して生きてるなと感じたんです。工夫できるのは、もちろん動物園で働く人たちのおかげでもありますが。でもそれに気づいた時、僕たち人間だって、そうやって生きていると思いました。みんな自分は自由だと思っているかもしれないけれど、実際は自由じゃなくて、行動範囲だって実は限られている。仮に自由だったとしても、それはあくまでも自分の想像の範囲内での自由であって。選択肢って無限のようで有限で、その中で工夫してやっていくしかない」

人間にも見えない檻がある、と。
「そう。僕はもともと心配性で、諦めちゃダメだ、ちゃんと就職しなきゃダメだって焦る気持ちが強かったんですけど、どんな生き物にだって囲いはあるんだと考えると、別に焦る必要はないのかもしれないなと思いました。しかも人間は、檻や囲いを見れば単純に『閉じ込められてかわいそう』って思いがちじゃないですか? でも実は、勝手にそう思っているのは人間だけなんです」

どういうこと?
「たとえば檻の中にいるトラって、檻があるおかげで『人間がこっちに入ってこない』という安心につながっているらしいんですよ。住みやすいかは別問題ですけど、檻は人間を守るためのものだけでなく、動物を守るためでもあるんだと。そりゃあ、どんなに生き物に寄り添って住みやすい環境を作ったとしても、動物園は人間のエゴの産物ではあるのですが、動物園が教えてくれることって本当にたくさんあります」

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)
虫を大切そうに指に乗せ、見せてくれる

野生的なものと人工的なものが混じった「動物園」という、特殊な空間の虜になった野崎。人間誰しもに見えない檻があって、その檻は必ずしも悪いものではない──。大学卒業後、しばらくは焦ることをやめ、働かずに動物園と映画館の往復を繰り返していたが、さすがにお金に困った彼は、一度就職することに決めた。

選んだのは、映像の著作権などの権利処理をする会社。彼はそこで5年間サラリーマンを経験する。本当は幼い頃から好きだった映画制作に携わりたかったが、映画制作の大手企業は基本新卒しか募集しておらず、それ以外は経験者採用がほとんどだったという。入った会社は「映像の著作権の仕事」と言えど、仕事内容は映画とはほぼ無縁だった。

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)
「最近、ヒトの看板にある"分布"の文言が変わったんですよ」


仕事に対するモヤモヤなどはなかった?
「うーん、仕事内容はルーティンなものだったので正直向いていなかったですが、仕事が必ず6時半には終わったので、ちゃんとプライベートが確保されていて、そこでたくさんの人と出会えたのはよかったなって思います。それが結果的に、今一緒に映像制作をしている人だったりもするし」

決してムダではなかったと。
「そうですね。人間、好きなことから離れたとしても、やりたいってずっと思っていたら、巡り巡ってもう一度チャンスがやって来る時があると思うんです。就活って、なぜか一度失敗しただけで人生に制限がかかるイメージがついちゃうじゃないですか。そういう制限は本当にくだらないと思う」

たしかに、そこで失敗したら終わりだ、みたいな風潮はあるかも。
「たとえば、映画を作りたいのに、映画会社に受からなくて銀行に入ったら、映画の道とはさようならって感じがするけれど、意外とそうじゃないなって。今僕は会社をやめてフリーで映像制作をしていますけど、別にそれまでの仕事で培った何かのおかげじゃないし。そう思えば、なんであの頃あんなに焦ってたのかなって思う。そういうことに気づけたのも、動物園に通ってからですね」

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)
「ヤギのお腹が大きいのは、妊娠ではなくて胃が大きいからなんです」

動物園。人とまったく異なる生き物たちが、それぞれの時間で生きている場所。本来野生的な生き物が、人工的な空間で生きる場所。動物たちを見ているようで、実は動物たちに見られている場所。

「どんなに頑張っても、動物園は動物園じゃないですか。本来そこにいるはずがない動物たちがいる。だから動物園って、どんなに工夫しても、全部を肯定できないんです。そういうところも含めて、僕は動物園という場所が好きなんですよね」

取材中、ポロっと彼が口にした言葉。「どんなに工夫しても全部を肯定できない」という言葉は、まるっとそのまま、私たちが生きるこの人間社会にも当てはめられるのはないか。そんなことをふと思う。

現在、いくつかの映像制作に取り掛かっているという野崎。動物園に通い続け、動物たちの人生と長い時間向き合っている彼の、達観と、諦観と、愛情が作り上げる作品がどんなものになるのか、これからも注目していきたい。

「うまくいかなくてもまあいっかって思えた」。年間170回以上動物園に通う男の達観したVOICE(なんとか生きてる、ただの人/31歳)
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