「最後の晩餐に何を食べたい?」。しばしば議題に上がるこの問いに、あなたは何と答えるだろう。「その時の健康状態による」とあくまでシリアスに捉える人もいるだろうし、「悔いを残したくないから水かな」という声を聞いたこともある。不毛なQ&Aではあるけれど、死ぬ前に食べたいものの中には、心の奥底の大切な思い出とか、その人の性格とか、あるいは哲学とかが滲み出ているように思う。だから、満面の笑みで「チーズケーキ!」と答える彼女は、あまりに素直で、愛らしくて、思わず羨んでしまうほどに眩しかった。
大石楓夏、20歳。女子大に通うモデルで、ファッションや美容系を中心に活躍している。そのスラリとした体型とは結びつかないが、彼女は無類のチーズケーキ好きだ。

「チーズケーキの好きなところ? そんなの全部に決まってるじゃないですか! もう、存在そのものが好き。あの甘い匂いも大好きだし、舌にまとわりつく濃厚さがたまんない……ああ、食べたくなってきた、早く行きましょう!」
この日は、大石さんオススメのチーズケーキが食べられる3店舗をアテンドしてもらった。
1店舗目は、有楽町駅前にある『6th by ORIENTAL HOTEL』。お目当ては、表面を真っ黒に香ばしく焦がした、中がトロトロのバスクチーズケーキ。

「しっかり焼きのベイクドとか、レアとかスフレとか色々あるけど、私はバスクが一番好きです。濃厚で、チーズそのものを味わえてる感じがするから」

ブラウスにロングスカート。エレガントな装いが、腰までまっすぐに伸びる黒髪によく似合う。
「お店の雰囲気に合わせて、ちょっぴりシックな服装にしてみました。床の絨毯とか天井の柄とか、クラシックで贅沢感のあるお店ですよね。いつも、お洋服はお店に合わせて決めてます。歴史ある喫茶店だったらレトロに、木造りが素敵なカフェだったらベージュ系のナチュラルな服装にとか、ファッションも込みでカフェ巡りを楽しんでます。だって、その方が気分も盛り上がるでしょ?」
続く2店舗目は、学芸大学の『AWORKS』。チーズプロフェッショナルの資格を持つ店主が作る、バラエティ豊富な創作チーズケーキがSNSで話題。

チーズケーキが来ると、彼女はひたすら喋りながらシャッターを切る。
「気づくと50枚くらい撮ってたりするんです。つい撮りすぎちゃうんですよね、愛おしくて。うーん、どこから食べようかな……。

あ、チーズケーキって、どこの部位から食べても同じだと思ってませんか? 全然違うんですよ! 内側と外側、上と下、食感も味も全部違う。いくつもの楽しみがチーズケーキの中には詰まってるんです」

運ばれてきたチーズケーキの写真を撮り終えると、次は頭の中でゴールまでの筋道を立てるそう。
「このチーズケーキだとこの部分がやっぱ美味しいから、ここからスタート。そしたら次はここで、最後はあそこを食べて完食!って。気持ち悪いですよね、すみません。わたしと一緒にチーズケーキ食べに行く人は覚悟が必要です」

最後に訪れたのは、代々木公園にある『MEALS』。優しい味付けの家庭料理が人気のお店だが、オレンジピールが添えられたベイクドチーズケーキにもファンが多い。

「このお店は、1人でお散歩してるときに見つけました」
高校2年生からの趣味というカフェ活は、もっぱら1人か、女友達と一緒だそう。デートで行かないのと聞くと、2年くらい誰ともお付き合いしていないから、とカラリとした笑顔で答える。

「無理に彼氏が欲しいとは思ってないです。自由が好きなんですよ。1人カフェ大好きだし、お仕事も頑張りたいから、付き合うなら私を1人にしてくれる人がいい。返信遅いし、連絡取るのも1週間に1回くらいでいいかな。遊ぶ前日に『明日何時にここ集合』とか、必要な連絡事項だけで。
前は自分からアプローチしたりしてましたよ。昔付き合っていた人は私から好きになって、話しかけまくってやっと覚えてもらったし。でも、付き合ううちに段々立場が逆転しちゃって、愛が重く感じてきて。束縛されるのが辛かったし、どんどん幸せじゃなくなっていくのが苦しかった。きっとその反動で、今自由とチーズケーキを追い求め過ぎてるんです」

人それぞれ、恐怖の対象は違う。“愛されすぎるのが怖い”という感情だって、トラウマのひとつとしておかしくもなんともない。親に大事にされすぎて家が息苦しいとか、彼に大きな愛をもらったら同じくらい大きな愛を返さないといけないと感じるプレッシャーとか。愛はとても大きく強い感情だから、偉大であると同時に、やっぱりそれ相応の副作用もある。

「チーズケーキは、いつでも私の味方でいてくれるんです。普通だったら“家族、友達、彼氏”だと思うんですけど、私の場合は“家族、友達、チーズケーキ”。私を構成する一大要因になってます。チーズケーキくらい好きになれる人ができたらいいなあ。もしそうなったら、その人への気持ちってきっと愛ですよね」
【大石楓夏が恋するチーズケーキショップ】
●6th by ORIENTAL HOTEL
異国のホテルのような雰囲気の、オープンキッチンがあるイタリアン。バスクチーズケーキの他に名物のふわふわパンケーキも必食。
Address/東京都千代田区有楽町1丁目12-1
Tel/03-6212-6066
●AWORKS
民家を改装したカジュアルでリラックスしたムードの店内で、名物のチーズケーキとドリンクが味わえる。味はもちろん、華やかなビジュアルも魅力。
Address/東京都目黒区中央町2丁目23-20
Tel/03-6873-7390
●MEALS
家庭料理のような身近でほっこりとするお料理が食べられる食堂。アップルパイやラムバター風味のパンケーキなど、スイーツメニューも充実。
Address/東京都渋谷区富ケ谷1丁目17-5
Tel/03-5465-1772