あれから、どう変わった?
これまでTOKYO VOICEに出演してくれた人たちに聞く、今この瞬間の生き方のはなし。前回出演時のバックナンバーとともに届けます。
新しい日常の中で、これまでTOKYO VOICEが取材してきた人たちは、今何を感じ、どう生きようとしているのだろう。今回は2019年9月のTOKYO VOICE vol.5に登場してくれた、武井法香。クロムハーツのトップセールスパーソン。コロナ渦による休業を越えて今、少し違う気持ちで青山の店に立っている。
あれから時が経ちコロナにより日々が変わってゆく中、改めて話を聞かせてほしい。そう連絡すると、彼女はまず医療従事者への感謝を語った。そして「私は、無口が好きですなんですけど」と前置きした上で、今の心境を聞かせてくれた。
前回のインタビューはTOKYO VOICE vol.5に掲載
TOKYO VOICE VOL.5
インタビュー
武井法香/岐阜県出身
(セールスパーソン/69歳 → セールスパーソン/71歳)
※この記事は2020年7月3日にインタビューしました。
コロナの影響でお店が休みになりましたね。その間はどう過ごしましたか?
あのね、岐阜の田舎に母が暮らしているんです。庭のすぐそこまで猪や猿が来るんですよ。石庭です。こおんなに大きい石が40も50も。広いですよ。母が93歳だから、長きにわたり手入れができなかったのね。お店は4月の頭から臨時休業で、ちょうど10週休みました。私はお店が休みになる前から有給もらって田舎に戻っていましたから、2ヶ月のプレゼントでした。
プレゼント、だったんですね。
そうですよ。私、母が好きなんです。本当に大好きです。私は、年齢的にはもう働かなくてもいいんですよ。年金生活者のグループだから。もしこの先、働かなかったとしても、どうにか質素には生きていけるの、たぶんね。今は時間があったら母と過ごしたい、それだけですよ。
それは、前回のインタビューから変わったことですか?
70の大台を超えたじゃない。前回お会いしたときは69歳で、今71歳になったんですよ。十分やったかな、仕事はって。前から感じてはいたんでしょうけどね。戦後何もない時に育ててもらって、母にお返しをしたいんです。海外旅行ももういいかな。他のことはもう、やってきたから。
田舎でのお母さんとの暮らしは?
花が咲く季節だったでしょう。朝5時に起きて庭に出るんですよ。麦わら帽子に手拭い巻いて。それで芝刈り機持って、何年分もの芝を刈っていくの。気持ちいいですよ。成果が目に見えるから。それから6時には晩ご飯。田舎ですから。夜が更けて、母が綺麗な寝室へ行き、さぁ飲むかな、という日々の時間がとても好き。
東京の生活とは全く違いますね。
そりゃもう。大雨が降るとね、大きな石が、家のそばの川を流れてくるんです。ゴロゴロってもんじゃないですね。ごうごうと、地響きみたい。すごい音。鳥の声もすごいですよ。朝6時頃から、ホーホケキョって。いいところですよ。なんにもなくて。
田舎でも服はクロムハーツを?
まさかまさか。でも、身ぎれいにはしているから。向いの娘さんが「何してらっしゃるんですか?」って言うんです。「話すと長くなるよ」って言うと「ファション関係ですか? かっこいいですもんね」って、そう言うんですね。そのとき私、もんぺに長靴なの。
洋服のことも改めて考えたんです。私、自分で鏡見ても美しいなって思うんですよ。スラックス履いてセーター着ているだけで、スッとしてるの。歳とると、背中が丸まってしまうでしょう。同じ年齢で私くらい背の高い人っていないですよ。やっぱり姿勢と、美意識。ただ高いもの着てればいいってわけじゃないのね。
お洒落って、どういうものでしょうか?
食器をきちんと並べて、アイロンのかかったシャツを着る。そういう質素なことに美意識があらわれるって。このごろ特にそう思うんです。美しいものをひとつひとつ選んで、それをちゃんと使って生きること。例えばタオルを干すときにパンとシワを伸ばす。鍋を丁寧に磨く。そうした暮らしの些細なひとつひとつが、今の私にとってのお洒落なんです。