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かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」(クリエイティブ・ディレクター/53歳)

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」(クリエイティブ・ディレクター/53歳)

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)

TOKYO VOICE WEBでは「かわいいおじさんFILE」という連載を開始します。
なぜ「かわいいおじさん?」という質問には、おいおい語るとして、記念すべき1人目の「かわいいおじさん」にご登場ねがいましょう。広告クリエイティブの世界ではその名は轟いているPOOL inc代表の小西利行さんです。でも今回のインタビューは、広告のことはちょびっとしか聞きません。テーマは「小西さんのかわいいおじさん進化論」です。
おじさんなんて自分とは関係ないと思ってる若くてイケメンの君。
これはもしかしたら30年後の君の物語なのかもしれないのだよ。

渋谷道玄坂の中ほど、風俗店と飲食店がごっちゃになった、つまり性欲と食欲が同居するいかがわしい一角に「挽肉と米 渋谷店」はあります。「挽きたて、焼きたて、炊きたて」をコンセプトに、いつも行列が途絶えない人気店です。炭火で焼いたハンバーグを、羽釜で炊いたごはんの上に載せて食べる。ハンバーグ・オン・ザ・ライス! そうまさに、「それ絶対うまいやつ〜」なんです。そしてちょっと恥ずかしそうにハンバーグごはんを食べているおじさんが、今日の主役、小西利行さん。著名なクリエイティブディレクターであり、傑出した食いしん坊であり、このお店の共同経営者のひとりでもあります。ここからは小西さんの愛称「コニタン」で行かせていただきます。

「中はレアですが、炭火で焼いているので火は通ってます。塩味が付いているので、何も付けなくてもおいしいんですが、いろいろ調味料があるので、好きな味付けにして楽しんでもらえるんです。僕はこのレモンが好きかな。僕の友だちは飲食系の人がすごく多くて、ある時『ハンバーグの山本』を作った山本くんに、『どんな料理がいちばんおいしいと思う?』と聞いたら、『それは炊きたてのごはんの上に、焼きたてのハンバーグを乗っけて食べるやつでしょ』って答えたんです。『じゃあ、どんなハンバーグがいいの?』と聞いたら、『挽きたて肉で作るハンバーグ』って言うから、その場で盛り上がって、そのコンセプトのままお店を作ったんですよ、モグモグ(※食べる音)」

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
食べている様子を見ているだけで、こちらも幸せになる。「食べるのがうまい」と言ったお母さんの言う通りです。

コニタンの父は京都の都ホテルでフレンチのシェフをしていた。その影響で子供のころから父親の横で料理を手伝っていた。飲食店に対する思いも、人一倍強いと言います。

「フレンチのシェフなんで本当は凝ったソースのかかった料理とか、誕生日に食べさせたかったと思うんですが、子供たちが好きなのはハンバーグ、カレー、唐揚げ。仕方ないから一生懸命作ってくれて。父親の作るハンバーグ、抜群にうまかったんですよ。カレーも唐揚げも。僕も手伝うようになって、料理をするようになり、高校受験のときには深夜2時ごろにお腹が減ると、自分で種からハンバーグを作って焼いて、朝4時くらいに食べて寝るとか、モグモグ。中学2年生の時に、父親に料理人を継ぐって言ったんですよ。そしたら『お前は味覚音痴だからダメ』って言われて、あの時は全然意味がわからなかったんです。母親には『あなたは食べるのがうまい』って言われて、それは未だに意味不明です、モグモグ」

コニタン少年はシェフへの道を断念して、大阪大学に進学。卒業後は博報堂へ入社し、広告クリエイターの道を歩む。そして気鋭のCD(クリエイティブディレクター)として36歳の時にPOOL inc.を設立。現在に至る活躍は、料理人にしなかったご両親の慧眼のおかげかもしれません。

仕事は順風満帆、でもおじさん化の暗雲が

「僕が言うのもアレなんですが、博報堂に入った頃はちょっと男前だったんですよ。先輩のお姉さま方が今年の新入社員にかっこいいのが来たと、ちらほら見に来るくらいで。証拠に入社当時の社員証がありますから、見てください(※1)」

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
別人か!と突っ込みたくなるほど、短髪で精悍。

「でも僕がチヤホヤされているのが面白くなかったのか、クリエイティブの先輩から『お前つまらん顔だから、明日からヒゲ生やすか、髪の毛色入れるか、メガネかけるか何か変わったことやってこい』って言われて。目は悪くないし、急に髪の毛染めるのもクライアントに怒られそうな気がしたので『じゃあヒゲを生やします』ということになった。自主的じゃないんです。でも最近はヒゲがいい感じにシャドーになって、あごはこのあたりですよと顔と首との境界線になってるのが、ちょっと悲しい」

順風満帆に見えた広告クリエイターとしての人生に、暗雲が立ち始めたのは入社間もなくのころ。体重が急速に増え始めたのです。仕事が忙しくなるほど、不規則な食生活、夜の付き合い(※2)など高カロリー&低運動&ストレスフルな生活が続きます。もともと食に対してこだわりの強い小西さんだけに、体重は一気に増えていきました。

「68キロくらいになって、ちょっと多いな〜と思ってたら、そこからMAX98キロまで行った。入社して10年経ったころです。ここでよく100キロは行かなかったの?と聞かれるんですが、100の壁っていうのがあって、3桁は太る才能がないと行けない世界なんです。デブ業界では100超えできる人は才能って言われてます。僕のような才能のない人間は、100の手前で体を壊すかなんかして、つらくなって戻ってくるんですよ」

コニタンのかわいいおじさん進化の過程を、ご覧ください。ちなみにキャプションに書かれた<かわいいおじさん第1形態>などの表現は、<かわいいおじさんの完成形=第5形態>に向けての進化を表していて、映画『シン・ゴジラ』から思いっきりパクらせていただきました。

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
<かわいいおじさん第1形態>
体重が一気に増えたころ。入社してすぐに太り出したことがわかる。
かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
<かわいいおじさん第2形態>
髭が生え、体重が増え、30歳で髪を金髪にしてプロレスラー的容貌に。
かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
<かわいいおじさん第3形態>
メガネもかけはじめた。ダイエットも始めて、まだかっこよさをあきらめていなかった頃。
かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
<かわいいおじさん第4形態>
モジャモジャが加わって、ほぼ完成形に。かわいいの破壊力はハンパないです。
こうして手を頬に当てる仕草も、戦略的。

<脚注>

※1 「若い頃はかっこよかった」と言うのは、おじさんあるある。

※2 「夜の付き合いは仕事」という言い訳もおじさんあるあるだが、コロナ禍になり夜の接待がなくなり、今やおじさんないないになってしまった。

ある日気づいた、くまさんキャラな自分

「98キロになってこれはやばいなと思って、ゴールドジムとかライザップみたいなところに行こうとして、やっぱり怖そうだからやめて、パーソナルトレーナーとか優しそうだなと思って始めたけど続かなくて、ヨガやってピラティスやってやっぱり続かなくて」

ダイエットとリバウンドを繰り返しながら、やがてそれも無駄な抵抗と徐々にデブな自分を受け入れていくというおじさん化への基本ルート(※3)をコニタンもたどります。

「ある日、かわいいと言われている自分に気づいたんですよ。そのきっかけが髪の毛がモジャモジャになってから。もともとこんなに強い天然パーマじゃなかったんですが、10年間金髪にしていたので毛根が弱くなっていたのか、黒に戻したらめちゃくちゃモジャモジャになってて、そこからです。当時広告業界だからキャバクラとか行ったりするじゃないですか。金髪のころはプロレスラーみたいな容貌だったので、『何のお仕事されてるんですか?』みたいな会話から入るはずなのに、黒モジャになったら『わあっ、なんかかわいい!』って言われるんですよ。『お腹触っていいですか?』って、『うわっ、思ったよりかた〜い』とか言われて。いきなり距離が近いから、コーヒー飲んでても『もうなんかすごくかわいい!』とか。もうおれは何もしなくていいのか!って発見があって、いろんな意味で楽になりました。仕事上もプレゼンの時に、金髪の時は『こんな金髪がまともなことを話すんだ』みたいな感じですけど、今は『こういうほんわりした人が堅いことを話すんだ』みたいな、ギャップ萌えですよね、ちょっと恥ずかしい」

割と最近こんなこともあった。仕事の打ち合わせの時に、みんなの説明を聞きながら真面目に返していたら、「いつもこうやってますよね」と。言われたポーズがこちら。お腹の上に両手を載せて、ちょっと太めの神父さんのような安息のポーズ。

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
お腹の上に手を乗せるポーズを再現していただきました。かわいい!
かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
夜寝る時も同じポーズだそうです。

「それを言われて初めて自分でも気づいたんだけど、これはくまさんキャラじゃないとやばいなと思って。未だあきらめずに男前キャラを突き進んでも、このポーズを取った瞬間に壊れてるからダメだと。かわいいおじさんで行かないとやばいおじさんになっちゃうと思ったんです。とはいえ、かっこよさを完全にあきらめた訳じゃなくて、かわいい路線で行こうぜ!とか思ってる訳でもなく、一応は二枚目をイメージしながら生きてる、一応は」

<脚注>

※3 「おじさん化とはあきらめることなり」と悟る道のりは、禅宗の修行僧が阿闍梨になっていく過程と同じである(ウソ)。

おじさんがかわいいを受け入れたら、社会は変わる

「かわいい」という言葉は共感の言葉です。誰かが「かわいい!」と言えば、たちまちかわいいの輪が広がっていく。「かわいい」は上下に伝わる言葉じゃなくて、横に広がっていく。だから組織の上にいて、上下に伝える言葉しか持っていないおじさんは、全然かわいくない。ブラックボックス化した組織には、必ずかわいくないおじさんがいる。例えば、政治の世界。オリンピック選手の金メダルを噛んで、大批判を浴びた市長がいた。行為そのもの以上に、「きもちわるい」というマイナスの共感が広がった結果でした。

「究極のおじさん領域って政治じゃないですか。菅首相も総理大臣就任前はかわいいとこあったんですよ。パンケーキが好きみたいな話が流れて、みんなはちょっといいかもと思った。でも実際はかわいくなかった。やっぱり何か隠してるって思われたら、胡散臭く見えてしまう。だから自分に正直であることも、かわいいおじさんの条件じゃないかな。以前、蓮舫さんに菅さんが厳しく批判された時に、『それは失礼な言い方じゃないか。必死でたくさんの人と話して決めてるんだから、僕もがんばってるんですよ』って気色ばんで言ったことがあったんです。その瞬間はかわいかった。ちゃんと自分の声で話してるから」

組織より個人。建前より本音。義務よりも好きなこと。そんな生き方を体現してきたコニタン。かわいいおじさんは目指してなれるものでしょうか?

「目指すこと自体がかわいくないからダメだと思うけど、真面目に生きてきたサラリーマンであっても、何か自分の好きなことをやってみようかなと思った瞬間から、かわいい人生の始まりですよ。今まで組織の中で自分を殺していたような人が、バイクに乗って走り出したら、もうすごくかわいい時間が流れてる。だからそんなに難しくないと思う。それに組織に与えるかわいいおじさんの最大のプラス面って、上下のヒエラルキーを壊すことじゃないかと思うんです。人の上に立つんじゃなくて、横に立つ。かわいいっていうジャンルをおじさんが受け入れたら、組織は変わるしおじさん自身も幸せになりますよね。そのためにはまず、『かわいい』って言葉にしてみることから始めたらいかがでしょう」

コニタンのCDとしての仕事も、上下ではなくみんなの中に立つことを理想としている。

「広告はゴールが売ることなんで、僕は本当はあまり好きじゃなくて、『これがおいしいですよ』って言って売って、その人たちが食べたら終わるんですよ。それが広告なんです。でもおかしいなと思う。食べた人が『今日ねこういうの食べたらおいしかったの。今度行きましょう』って言う食べた先の方が見たいし、その商品が存在することが10年後、100年後に幸せを生むのかということが、僕にとってはいちばん大切なテーマなんです。少なくとも僕は幸せになりたいので、それがない方が幸せだと思ったらないほうがいい。だからあってはいけないと思うものは、クライアントにあってはいけないと伝えないといけない。でも僕は神さまじゃないし、基本鈍感だと思っているので、周りの人たちの言葉を聞くんです。その言葉を吸収していくと接点ができて、それが歪んでいるか歪んでいないかがわかる。だから僕はいろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい。そうして『この辺りがみなさんの幸せのポイントじゃないですか?』って提示したい」

渋谷のスクランブル交差点の真ん中に立っているコニタンを想像した。それぞれの人生の物語を生きている主役たちが、それぞれの幸せを探しながら通り過ぎる。その群衆を上から見るのではなく、同じ場所に立って耳を澄ませているコニタンがいる。

「究極何もやらないで世の中が幸せに動いていくようになったら、最高傑作だな。その仕組みを作るのが自分の仕事だなって思います」

かわいいおじさん第4形態のコニタン。この先、第5形態に向けてどう完成していくのだろう?

「完成形がどんなものか、ちょっとわからないけど、まだまだいけるんじゃないですかね。たぶんこの先白髪になったり、物忘れが激しくなったりして、だんだんと退化という名前の進化があるんじゃないかな。まず、メガネがズレ始めると思うんですよね。人間ドックの先生が『やせれば?』って言うんですよ。『やせたらなんとかなりますか?』って聞いたら、『たぶん全部一瞬で改善すると思う』って(笑)」※4

<脚注>

※4 かわいいおじさんの一番の敵は健康問題。中性脂肪、γGTP、血圧とかいろいろ問題はあっても、忘却力で明るく生きているのです。

かわいいおじさんFILE #1 「いろんな人の幸せの交差点の真ん中に立ちたい」 (クリエイティブ・ディレクター/53歳)
大好きなメガネのコレクションは40個以上。コニタン、かわいい!
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