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「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)
「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE(コピーライター・プロデューサー/39歳)

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE(コピーライター・プロデューサー/39歳)

「いい仕事をしたい」

働きはじめた時、きっと多くの人が胸に抱く情熱。でも、その気持ちをずっと持ち続けられる人はいったいどれくらいいるのだろうか。働き方改革、SDGs、DX。社会の変化と共に生き方や働き方を変える人が増えている。

「なんとなくこのままではいけない気がする。でも、どうすれば」

答えの出ない問いを前にした時、ある人の顔が浮かんだ。

「そうだ、あの人に話を聞いてみよう」



「僕の中では『ゆるさ』と『弱さ』は人生の2大テーマなんですよ」

少年のように目を輝かせながら話す彼の声はふつふつとエネルギーに満ちている。

澤田智洋。職業はコピーライター、プロデューサー。大手広告代理店の会社員でありながら、肩書の枠を越えて様々なプロジェクトを手掛けている。年齢、性別、障害の有無を問わず誰もが楽しめる新しいスポーツ「ゆるスポーツ」、義足の女性モデルがランウェイを闊歩する「切断ヴィーナスショー」、ひとりを起点にファッションを開発する「041 FASHION」など。ひとりの背景にある社会課題を起点にポップでキャッチーな話題の企画を生み出す独自の手腕は今大きな注目を浴びている。精力的な活動の根底には「弱さ」を生かせる社会をつくりたいという思いがある。今年の3月、これまでの取り組みと、生き方や働き方に対する考えをまとめた本『マイノリティデザイン』を発表した。

「10年前の僕は、ただの冴えない広告会社マンで、その時は全然仕事が楽しくなかったし、虚しかった。今の働き方をはじめて、息を吹き返したというか、生命力がみなぎっている感じがするんです」

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)

現在は広告×福祉の領域を中心に唯一無二の存在として活躍している澤田だが、20代の頃は大手広告代理店の花形のCMプランナーとして活躍する一方、次から次へと迫りくる納期、話題になったキャンペーンが1ヶ月後には忘れ去られてしまうような環境の中で「この仕事って誰のためにやってるんだろう」という虚しさを感じていたという。

そんなある日、彼は思いがけず人生の大きな転機を迎えることになる。生後3ヶ月の長男の目が見えないことが発覚したのだ。「終わった、と思いました」当時の心境を著書にそう綴っている。

「父親がキレイなCMをつくったところで、視覚障害のある息子は見れない」

その日から広告の仕事が手に着かなくなってしまった。そして彼は、生き方や働き方を根本的に変えることを決意した。

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)

障害のある我が子のこれからの人生のために何かヒントが欲しい。息子の障害が発覚した後、そんな一心で、障害のある人200人に話を聞きにいくことにした。すると、そこには思いがけない出会いと発見がたくさんあった。

「会う人、会う人、みなさんすごく個性的で、今日はどんな人なんだろうって、毎回本当に楽しみでした。どんな話になるのかが、予想がつかないんですよ。実際に障害も、価値観も、ビジョンも違っていて。僕が知ってた人間の幅ってすごく狭かったんだなと思いました。自分の障害をパートナーとして力強く生きてるような人たちとたくさん出会って、純粋に同じ人間としてすごいなと思いました。それって僕の中では、オリンピックでボルトが100mで世界新記録を出した時に味わった感動と同じなんですよ。人ってすごいなって。絶望的な状況に追い込まれてもここまで立ち直れるんだなって。美しいなと思いました。障害を美化してるとかではなくて、人間って底力があるんだなって。そういう人間の本質や、可能性を障害のある方から教わったんです。シンプルに言うと、惚れたんですね。付いていきます!みたいな」

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)
Techo School(手帳スクール)
2018年3月10日開催。障害者手帳を持つ先生による、「最先端の働き方」を学べる学校。
元車イス芸人・車イスホストで現在Youtuberとして活躍している寺田ユースケ氏など
個性豊かな講師から自分らしい生き方、働き方を学ぶ。

障害のある人たちの想像を越える豊かな独自性としなやかな生き様に澤田は勇気づけられた。同時に、彼ら彼女らが日常で生活をする上で様々な課題を抱えていて、その多くが社会に見過ごされていることを知る。そして、彼は、障害のある人が抱えている課題の中に、社会に大きな変化を生み出す可能性を見出した。こうして、新しい生き方や働き方の軸が定まった。

「息子に障害があることが分かってから知ったんですが、日本には障害者手帳を持っている人が約930万人いるんです。この930万人側の友人たちの話を聞くと、いろいろな不満が出てきて、社会の課題が浮き彫りになってくる。企業の中から課題を考えても、そこに深刻な課題はほとんどないから、重箱の隅をつつくみたいなマイナーチェンジしか生み出せない。だけど、障害のある方をふくめたマイノリティが悩んでいることを起点に仕事をしたらメジャーチェンジが起こるんじゃないかと思いました。せっかく仕事をするなら、マイナーチェンジじゃなくて、メジャーチェンジを起こしたい。それは働く上での自分のエゴだと思うんですけど、当時無力感を抱えていた僕は、自分が介在したことによって鮮やかな変化を起こせる道を選びたいと思いました」

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)
オールフォアワン(ALL FOR ONE) プロジェクト 041ファッション
いまだ解決されていない誰か1人の課題を起点に、プロダクト・サービスを開発するプロジェクト。
ユナイテッドアローズと共同で、障害のある人が抱えている課題からみんなにとって
心地のいい服を開発した。

彼の著書『マイノリティデザイン』はこんな一節からはじまる。

すべての「弱さ」は、社会の「伸びしろ」
あなたの持つ、マイノリティ性=「苦手」や「できないこと」や「障害」や「コンプレックス」は克服しなければならないものではなく、生かせるものだ。

澤田は、それまで取り組んでいた企業の広告をつくる仕事を一旦辞めて、「苦手」や「障害」などなんらかのマイノリティ性を抱えている人たちの課題と向き合い、ひとりの「弱さ」を起点に物事を考える取り組みをはじめた。

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)

視覚に障害のある人がプレイするブラインドサッカーを盛り上げるためのキャッチコピー「見えない。そんだけ。」や、義足の女性たちによるファッションショー「切断ヴィーナスショー」を手掛けるとたくさんの反響が寄せられた。日々息子や障害のある友人の課題と向き合っている中で、澤田は自分自身の中にもマイノリティ性があることに気づいたと言う。例えば、親の仕事の都合で海外生活をしていた学生時代、日本人の澤田はクラスの中でマイノリティだった。

人は環境次第でマイノリティにもマジョリティにもなりえる。マイノリティの人に居心地の悪い思いをさせているとしたらそれはマジョリティの側が変わるべきなのではないか。澤田の中でマイノリティデザインの思考と技術がかたちになっていった。

そして、彼自身のマイノリティ性の1つである極度にスポーツが苦手という「弱さ」と、目が見えない息子と一緒に遊べるスポーツの選択肢を増やしたいという思いから「ゆるスポーツ」が誕生した。気づけば、澤田の元には多くの人が集まっていた。

「はじめはみんな『何やってんの?』『広告つくりなよ』みたいな反応で敵が多かったですね。でも、自分の信念を貫いていると、だんだんみんながこっちの世界の面白さに気づいていって『ちょっと一緒にやらせてよ』とZ世代とかミレニアル世代の若い人たちから仲間になってくれてました。コロナ禍になってからは、むしろ管理職の男性たちから相談がくるようになったんです。一生懸命働いてきたけど、企業を辞めた時に何が残ってるんだろうって。よくある話ですけど、みんな悩んでるんです」

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)
世界ゆるスポーツ協会
「スポーツ弱者を、世界からなくす」をミッションに掲げ、老若男女健障誰もが楽しめる
新しいスポーツ ゆるスポーツの開発やイベントの運営などを実施している。
2015年に設立。これまで10万人以上にゆるスポーツを届けてきた。

昨年、アメリカの人類学者 デヴィッド・グレーバーの「ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事」という本が世界的な話題になった。ブルシット・ジョブとは、資本主義社会の中に存在する実は無意味で、誰の役にも立たない仕事のこと。コロナ禍の働き方改革やDXの推進など、社会の大きな変化の中で、日本でもブルシット・ジョブの存在が浮彫りになり、様々な議論を呼んだ。今の社会のあり方や自分の働き方に「このままでいいのだろうか」という疑問や不安を抱く人は少なくない。

「僕自身がとにかくもんもんと働いていたので息子きっかけで一度すべてをリセットしたんですよ。生き方も、働き方も、それまでの成功体験を全部捨てました。今、仕事がすごく楽しいのは、『誰かのために』じゃなくて、『あなたのために』仕事をしているからだと思います。第三人称の『彼ら、彼女ら』のためにじゃなくて、第二人称の『あなた』のためにっていう仕事が多いから、すごくやりがいがあるんですよね」

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)

澤田は、人はそれぞれ仕事における「運命の人」がいるのではないかと話す。心から解決したい、そのために才能や時間を惜しみなく注ぎたいと思える課題に気づかせてくれる人。彼にとっては、息子がその「運命の人」だったという。今の仕事に虚しさを感じている人がいるとしたら、力を注ぐ場所を間違っているのかもしれないと澤田は問いかける。

「僕がこの本(マイノリティデザイン)で提案しているのは、産業革命前の働き方、大量生産するために人間がベルトコンベアの前で労働をする前の働き方なんですよ。労働が仕事や活動と呼ばれていた時代、それは代替可能な仕事じゃないんです。あなたにお願いしたい仕事だし、お金をもらわなくてもやりたい。それが仕事や活動ってことなんです。一方で労働は代わりがいくらでもきく。だから、みんな労働じゃなくて仕事や活動の方をしませんか?ということを書きました」

「自分がいなくなる前に、すこしでも社会を今よりもよくしたい」

障害のある息子にとっても暮らしやすい社会であるように、澤田が思い描くのは、個人が「弱さ」を克服しなくても、「弱さ」を抱えたままで生きていける社会。「弱さ」を生かせる社会だ。

「目の前で困っている人がいたら力を貸すし、あなたが困ってるんだったらそれはちゃんと言おうよ。そしたら、まわりも助けてくれるからって。それが本の最後に書いた「迷惑かけて、ありがとう」って関係性です。「迷惑かけて ごめんなさい」じゃなくて、「迷惑かけて ありがとう」って。言い合える関係性になろう。自分が困ってるって言ったから、誰かの強さや、やる気を引き出せているかもしれないし、人間って誰かのために役立っている時に一番輝く、そういう社会性がある生き物だと思うから」

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)

仕事をする上で、無力感や虚しさを感じることは、きっと珍しいことではない。時には、自分がやっている仕事や自分の存在までもが無意味に思えてしまうことだってあるだろう。「マイノリティデザイン」は、澤田が、すべての働くひとたちに贈るエールだと思った。

「小さい=SMALLの中にALLって字が入ってるじゃないですか。小さいもの、あなたの中に全てが入っているから、だからひとりひとりを大切にしようよってよく言うんです。仕事になると、規模が小さいとか、もっと全体を見ろよみたいに言われることがありますが、それはひとりを舐めていると思います。ひとりにちゃんと尽くせばそれはちゃんと全体に波及していく、自分というひとりを掘り下げれば、それがちゃんと全体に繋がっていく思ってます。だから、やっぱり、言葉ってのはメッセンジャーなんですよ」

その声から確かな熱が伝わってくる。

きっと彼は誰よりも言葉の力を信じているのだ。

「僕は今の働き方をはじめて、息を吹き返した」弱さを生かせる社会をつくるコピーライターのあったかいVOICE (コピーライター・プロデューサー/39歳)
The Voice / Tomohiro Sawada
Photographer/ Mika Hashimoto
Edit / Yuki Yamamoto
Text / Yuki Kanaitsuki
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