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「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)
「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

レトロブームが止まらない。
純喫茶や写ルンですのリバイバルブーム。日本のCITY POPや昭和歌謡の世界的な再評価。 80年代風のイラストやフォントの流行。2021年春には西武園ゆうえんちが「昭和レトロ」をテーマにリニューアルオープンして注目を集めた。
若者を中心に、昭和や平成の懐かしくてエモいレトロカルチャーのムーブメントは今、静かな社会現象となっている。
なぜ、令和の若者はレトロカルチャーに魅了されるのだろうか?
今回はこの現象の謎に迫るべく、1人の当事者=レトロカルチャーをこよなく 愛する若者のファッションセンター(ゑ)に話を聞いた。
時を駆ける夜の散歩の果てに見えてきたものとは?

昭和の面影を残す粋なお店が立ち並ぶ大阪駅前第1ビルの地下街。待ち合わせ場所は創業70年の歴史を誇る喫茶&Bar King of Kings。ヴィヴィッドな幾何学模様ワンピースのファッションセンター(ゑ)はさっそく空間に溶け込んでいた。

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

彼女を知ったきっかけはTwitter。2020年の冬に1枚の画像を見たことがきっかけだった。

山下達郎の名曲クリスマスイブのヒットのきっかけになったJR東海の伝説のCM「クリスマス・エクスプレス」。その中で牧瀬里穂が演じるクリスマスに恋人と待ち合わせをする女性になりきる彼女。昭和レトロカルチャーへの半端じゃない愛を感じた。

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)
クリスマス・エクスプレスは1989年~1992年に展開されたJR東海のCMシリーズ。特に人気の高いのは1989年に放送された牧瀬里穂出演の第一作。
スマホがない時代、クリスマスに故郷に帰ってくる恋人を待つ様子は今、逆にエモいと定期的にネット上で話題になっている。(撮影 dyabe)

「クリスマス・エクスプレスごっこは実は一昨年からやってるんですよ(笑)12月24日にこの服着て出社したら会社の人にめちゃくちゃ面白がられて、休み時間に私の机の前に人だかりが出来るみたいな。去年はさらに細かいところにこだわりました。事前に写真をとって、父や母に確認してもらったんですよ。『どう?』『いける!』みたいな。クリスマスエクスプレスのCMを知ったきっかけはTwitterです。牧瀬里穂さんの格好が可愛くて、可愛くて。バブル感あるけど、くどくない。けど、ちゃんとクリスマスっぽい。それから、意識して似てるアイテムを集めました」

彼女が生まれたのは1995年。世代としてはちょうどミレニアル世代とZ世代の間になる。1995年と言えば、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、ウィンドウズ95の発売、新世紀エヴァンゲリオンの放送など、後の社会に大きな影響を与える出来事が起きた年だった。そんな日本の転換期に愛媛県松山市で誕生した彼女は、幼い頃から昭和カルチャーが身近にある環境でのびのびと育った。

「地元の愛媛県に歴史博物館があって、小学生の頃、親に連れて行ってもらったんです。そこには松山市にある大街道という繁華街の昭和の街並みを再現した展示があって、ヤバい、昔の街を歩くの楽しい!ってなって思ったんです。毎回、連れて行ってもらえるのがすごく楽しみでした。それが昭和カルチャーに目覚めるはじまりです」

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)
幼少期、今となっては少なくなってしまった遊園地で御機嫌なヒトコマ(本人提供)

「親もすごい昭和カルチャー推しだったんですよ。『80年代の曲はマジでいいから聴きなさい。聖子ちゃん聴きなさい』みたいな。今となっては、母が聖子ちゃん派で、私が明菜派でバチってるんですけど(笑)親の世代は家族みんなで音楽番組を見てる時代だから、家族全員同じ曲が歌えたらしいんですよ。なんか楽しそうだなって思っていました」

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

母親が運転する車の中ではいつも洋楽のダンスミュージックが流れ、父親の友人が家に遊びに来た時には積極的に会話に混ざって知識を蓄えた。昭和カルチャーと並行して、同時代に流行していた平成のガールズポップカルチャーも彼女を構成する重要な要素の1つだ。

「女の子はこれ好きだろみたいなものは全部通って来ました。新歓で『はい、はい、はい』ってチラシ受けとるくらいの気持ちで(笑)モー娘、ミニモニ、おジャ魔女どれみ、プリキュアが大好きだったんですよ。いや、『大好きだった』じゃなくて、今もなんですよ(笑)現在進行形で好きなんです。子どもの頃、モー娘になりたいとか、どれみちゃんになりたいとか、思っていたのが、そのまま大人になったって感じです」

Twitterinstagramに度々投稿される彼女の部屋はそんな脳内をそのままかたちにした様なワンダーランドが広がっている。

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)
 昭和レトロと平成レトロが混在する楽園 (本人提供)

「心からいいなと思うものを見つけてお迎えすることが好きで、部屋は結晶なんです。己の歩んで来た道なんですよ。最初は少なかったんですけど、どんどん増えていって。だから、逆にちょっと散らかっていてもバレない。どれみちゃんは好き過ぎて、昔買ってもらえなかったおもちゃを倍の値段で買い戻したりしてるんです(笑)存在が大きくなり過ぎで、偶像崇拝みたいになってます」

SNSで目に止まった作品があれば、そのままNetflixで鑑賞。ついでにその監督の別の作品をウォッチリストに入れて、グッズが欲しくなったらメルカリやアマゾンで検索する。デジタルネイティブ世代は自分の好きな世界をとことん掘り下げられる環境に生きている。それは、時代の象徴や世代の共通体験などはどんどん薄くなっていく一方、あらゆる時代のあらゆる文化に簡単にアクセスが出来て、全てがフラットに存在している世界なのかもしれない。

「あくまで私の意見なんですけど。おそらく今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです。例えば、おばあちゃんが着てた服でも、めっちゃ可愛い、逆にお洒落みたいなものがたくさんあって。いいものはいい。結局は己の琴線に触れるかどうかなんですよ」

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

彼女の考えは明快で、直感的に可愛いと思ったものが好き。それが結果的に古いものが多いというだけで、古いから好きというわけではないそうだ。ただ、これだけ古いものに魅力を感じる理由は、古いものにいいものが多かったからなのではないかと考えている。

「服の話をすると、昔の服はその人のために仕立てたなものが結構あるんです。一張羅みたいな。たまに古着でジャケットの裏にお名前が刺繍されていたりする服があるんです。この服どんな気持ちで着ていたのかな、どんな気持ちで売りに出したのかなって思いを馳せるのが好きで。でも、私はこの服好きだから着るよみたいな。誰かがいらなくなった服が、他の誰か欲しい人の手に渡ると考えるとロマンがありますよね」

現在彼女はインターネットを中心に、グラフィックデザインなど様々な創作活動を行っている。持前のセンスを活かしたレトロ&ポップなロゴが人気だが、創作の原点は小学生の頃にさかのぼる。

「家族の共用パソコンがあって、小学校2年生くらいの時からさわらせてもらってました。ワード(Microsoft Word)を触るのが趣味だったんです。夏祭りのお知らせみたいな。頼まれてもいないのに勝手に学級新聞をつくって持っていったりしてました」

高校時代には応援団に在籍。3年生の時に、衣装や演出を考える機会を得て、ものづくりの楽しさに目覚めた。高3の夏に美術系の大学の受験を決意、そのまま道を突き進んだ。大学卒業後は地元の愛媛を離れて、拠点を大阪に移した。今はかつて両親が大学時代に住んでいた街で暮らしている。

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)
創作したロゴの数々。
ファッションセンター(ゑ) ポートフォリオページから

最近では、静岡県熱海市にあるホテルニューアカオのオリジナルグッズに使用するイラストやロゴデザインを手掛けた。あらゆる時代のものをフラットに愛する彼女だが、80年代~90年代の空気を感じるデザインには特別な思い入れがあるという。

「この時代って知らないはずなのに『なんか懐かしい』って感覚ありません?
ホテルニューアカオの絵を描かせていただいて思ったんですけど、こういう風景ってなんか心に来るんですよ。どうしてかなって思ったら親の青春だったからなのかなと思いました。親が見ていた風景が色々なかたちで自分に受け継がれている気がして。だから、Z世代が80年代に熱狂しているのかなと思いました。いつか私たちの子どもの世代がこのコロナ禍の時代のことを懐かしく思う日々がくるかもしれませんね」

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)
静岡県熱海市にある老舗リゾート ホテルニューアカオの公式グッズ
バブル時代にプールサイドに掲げられていたキャッチコピー「心の中まで小麦色」を
コンセプトにイラストを制作した
Akao Resort online store

自分の家族を典型的な友達親子だと話す彼女。両親と距離が近く仲が良いとされているミレニアル世代、Z世代の若者が親の青春としての80年代、90年代に懐かしさや憧れを感じるというのは自然な流れなのかもしれない。

ミレニアル世代、Z世代の若者が青春を過ごした平成の日本はデジタル化が進んでインターネットカルチャーが花開いた一方、経済は大きく停滞「失われた30年」と呼ばれ、未来に希望を持ちにくい時代となっていた。かたや底抜けに明るい未来を無邪気に信じることができた親世代の青春と、生まれた時から全てが満たされている未来が描けないのミレニアル世代、Z世代の青春。未来が見えないことによる漠然とした「虚無感」も、レトロカルチャーに若者が惹かれる一因となってるとは考えられないだろうか。

「私たちが生きてるのって無の世界なんですよね。虚無。大阪万博が好きで、太陽の塔とか集めてるんですけど、あの頃描かれてる近未来ってわくわくするじゃないですか。まさに、『ドラえもんの未来』みたいな。今は、なんか世の中が疲れてる感じがしますよね。いや、疲れません?私、超疲れるんですよ。情報過多なのがイヤですね。制約が欲しい。今はSNSとか情報があふれすぎてるから、いろいろな人のものさしで見ちゃうので、自分のものさしがブレちゃうというか。だから、たまにテレビくらいしか情報源がなかった頃の方が良かったのかもしれないって思ったりします。それぞれの時代に、それぞれのしんどさがあるとは思いますけどね。私達が過去を振り返る時って、結局いい話しか残らないから、理想化された桃源郷なのかもしれないですね」

絶えず社会に接続して変化に晒される不安定な現在に対して、人々の思い出の中の過去は、安心して懐かしさに浸ることが出来るユートピアなのかもしれない。

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

時に自らを冷静に分析しながら、好きものは好きの我が道を貫く彼女に今後の展望を聞いてみた。

「もっと自分が好きなもの、レトロカルチャーの良さを伝えたいって思ってます。ただ、追いかけるだけって嫌だなって気持ちがずっとあって。だから、ノスタルジーに浸るだけじゃなくて、未来にそれを繋げていく表現を自分がしていきたいって思っています。古いものってほっておいたら、どんどんなくなっていくんですよ。でも、いいものは残したいじゃないですか。新しいもののために古くていいものがなくなってしまうことが嫌なので、それを守っていく活動が出来るくらいの人になりたいと思ってます。まだ発信力がそんなにないので、いろいろな人達と協力し合って頑張っていきたいなと」

コロナ禍の2020年~2021年は、街で様々な歴史ある喫茶店や食堂、書店やホテル等が惜しまれながら閉店を余儀なくされるニュースが連日のように飛び交っている。何も手を施さなければある時代やある文化を知る手がかりはいつか私達の街からきれいさっぱり消えてしまうかもしれない。

「私自身コロナが怖くて外に出られなくなっちゃって、自分の好きな文化を守れないことがすごく悔しくて。友達とコロナが明けたら行こうねって言ってところがなくなってるみたいなことが絶対あると思うので。ホテルニューアカオのイラストみたいに、私が直接行くことが出来なくても、まわりの人たちに行ってもらうことで盛り上げられるようなお手伝いがしたいと思ってます。クリエイティブやデザインを通してそれをやっていきたいです。」

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)

レトロカルチャー好きの若者の彼女は、両親と仲良しで、好きなものに真っ直ぐで、情報過多な社会から適度に距離をとりながら未来の見えない社会をハッピーに生きていた。

「レトロカルチャーは生活の一部ですね。レトロありきの毎日。楽しいです。
基本子どもなので。誕生日が来るたびに『4歳になりました』って言ってます(笑)」

最後に何か伝えたいことはありますか?と尋ねるとすかさずこんな答えが返って来た。

「じゃあ、お家に眠ってるおジャ魔女のグッズがあったら、私までDMくださいっ。ヤバい、仕事くださいっていうべきなのに(笑)」

彼女の話を聞いて、改めて「好き」という感情の強さを思い知らされた。私達が生きる今は、時に息苦しく窮屈で明るい未来が描き辛い時代かも知れないが、同時に誰かの「好き」が時代や国境を越えて多くの人の心を動かす可能性がある時代でもあるはずだ。インターネットに解き放たれた彼女の純粋な好奇心は、これからもかつて誰かが心をこめてつくった古き良きものを発掘して未来に繋げていく。

私達がふいに昔のものを触れて「懐かしい」と心を動かされる時、それは古き良き文化を未来に繋ごうとしてきたいつかの誰かからバトンをたくされているのかもしれない。

「今の若い人たちって、いいものに古い、新しいって感覚がないと思うんです」レトロカルチャーをこよなく愛する彼女のラブでポップなVOICE(デザイナー/26歳)
撮影 dyabe
The Voice / fashion center e
Photographer/ manimanium
Edit / Yuki Yamamoto
Text / Yuki Kanaitsuka
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