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TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」

VOL.7まで編集長をしていた山本です。そして今はこのTKVW(TOKYO VOICE WEB)の編集長をしています。今回ウェブのリニューアルにあたり、バックナンバーをすべて公開することになりました。それを勝手に記念して「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」を選ばせていただきました。

2年前(2017年7月)の創刊号からVOL.7(2019年3月)まで編集をして来た中で、1号から1枚だけ写真を選ぶ。それは楽しくて苦しいことでした。写真としての表現を語り始めると、どの写真もそれぞれにフォトグラファーの意図があって、素晴らしいものばかりです。なので、ここは僕の「好み」と「個人的な思い」を含めてエイやっと選ばせていただきました。というわけで「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」のはじまりはじまり。

死のイメージをまとう恋人とのベッドイン写真

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
Photo/Minamoto Tadayuki

創刊号から選んだのは中村中さんの写真です。見開きいっぱい、この写真を使いました。中さんはシンガーソングライターでトランスジェンダーでもあって、『友達の詩』などのせつない内面を描写した歌で知られています。この写真は都心のホテルで撮影しましたが、中さんは本当の恋人とベッドインしています。まるで情事の後のような、乱れたシーツに全裸でくるまっている姿がホテルの窓に淡く映っていてとても美しい。どこかに死のイメージをまとっているような美しい写真なのです。中さんはインタビューでこう語っています。『言葉って不自由です。言葉って不自由だと思っているのに、抱き合うとか愛し合うとか、セックスするとかそういう本能で感じられることも自信がないから、どう人と関わったらいいのかなって悩みます。でもやっぱりセックスしてくれた男性じゃないと信用することができなくて、そこではじめて、彼は私でも嫌じゃないのだってことが分かるから、そこからやっと私は本音を話すのかな』。

父親にしか撮れない祈りのままの写真

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
Photo/Narishige Matsuki

Vol.2からは生まれたばかりの赤ちゃんの写真を選びました。撮影したのはこの赤ちゃんのお父さんで、生まれる前から出産中、退院後までをずっと撮影した中の1カットです。記事中ではこの写真はあまり大きく使えませんでしたが、安らかに眠るこの子の将来を平穏であれと祈る思いが、伝わってきます。この原稿のためにもう一度この記事を確認したら、この女の子の名前が『穏(おん)』ちゃんということが分かりました。平穏の穏。まさに父の願いが込められた写真だったのですね。

日々を懸命に、思い煩わず生きた96歳の人生

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Photo/Nanasaki Yuri

Vol.3からは浅草に住む94歳の芸者さんの写真を選びました。ゆう子姐さんは小唄の師匠でもあって、お弟子さん(浅草の鰻屋の女将)に稽古をつけているところです。ゆう子姐さんは3歳で初舞台に立って以来、芸事の世界で戦前戦後を生き抜いた人。普段は穏やかなゆう子姐さんも、三味線を持つと途端に表情が引き締まります。その写真がこの記事のトップ画像。三味線を弾きすぎて左手の指が曲がったままになってしまうほど、芸一筋に生きた迫力が伝わってきます。『人生で一番うれしかったことは、大好きで大好きでしょうがなかった旦那さんの子供を授かれたこと』と言う旦那さんとは、もちろん戸籍上の夫ではない人。ゆう子姐さんを贔屓にしてくれた鼻緒屋さんの若旦那で『いい男よ。格好良かった』と当時を懐かしんで語ってくれました。『旦那さんが亡くなった時はお葬式は行ったわよ。でも看取ったりはできないから。最後にひと目会いたかったけど、そこまで勝手は言えないよね』。キレのいい下町言葉には過去をスパッと切り捨てる潔さがあります。94歳になってもイキイキと現役で活動を続けられた理由は、不幸や不運をあまり見つめずに、思い患わず日々を懸命に生きたからではないかと思うのです。この記事には後日談があります。ゆう子姐さんは今年(2019年)96歳でお亡くなりになって、この取材がおそらく生前最後のものだったのですが、暮らしていた浅草観音裏の人たちからTOKYO VOICEが欲しいという連絡が来たのです。ゆう子姐さんが毎日通っていた喫茶店の方は、涙を流してこの記事を読んだと聞きました。ゆう子姐さんが生きた証しを残せて、僕個人にとってもとても大切な記事になりました。

青春とは眩しすぎる愚かさのこと

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
Photo/Kikuchi Ryosuke

94歳から一転してVol.4からは高校生たちの写真を選びました。彼らは長野県伊那市の高校生バンドFAITHの5人。TOKYO VOICEが伊奈まで出かけて撮影した写真がこれです。雪の降った野原に駆け出す、まるで映画のような青春のワンシーン。フォトグラファーの演出写真ではありません。「雪だあっ!」といきなり駆け出したところを撮影した、まさにブレッソン的『決定的瞬間』です。構図といい雲の表情といい、まさに完璧な1枚でしょう。これを見るたびに、青春とは眩しすぎる愚かさのことを言うのだと思う訳です。

居場所のない女の子が見つけた自分の中の宝もの

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
Photo/Nakajima Yosuke

『このデニムのトップスを作ったのは“ミチコ”っていう引きこもりのゲーマーなんですけど、すっごい自信家で気の強い性格で。これはミチコが家のタンスの引き出しにあったデニムをひたすら引っ張り出して、縫い合わせた一番の勝負服。家にある服を自分で縫って作ってるから、細かいところはちょっと雑なんです』と、 “ミチコ”について語るのは南沙良さん。言葉がうまく出てこない女の子を演じた『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の演技で注目されるまだ17歳の俳優です。沙良さんの趣味は服を作ること。Vol.5のこの写真はミチコではなく彼女が作った服を着て撮影しました。服をデザインするときに沙良さんは物語から発想します。このデニムのトップスは “ミチコ”という存在から生まれました。『1人で想像してる時が一番楽しいかもしれない。「この子は、こういう性格だからこういうことが好きなんだ」とか、中学に入ってからぜんぜん友だちができなくて、しんどい時もあったんですけど、できないものはできないかな、ってずっと1人で自分の中とお話ししてました。たしかに、そういう時間が服作りとつなががってるのかもしれないです』。カメラを向けると沙良さんの表情は気の強い“ミチコ”に変貌。俳優としての才能の輝きを見た瞬間でした。

見る人の価値観を揺り動かす美しさ

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
Photo/Kitaoka Toshiaki

Vol.6の表紙写真にもなったのはモデルの中山咲月さん。20歳になる女性ですが、同世代の女性たちからは“王子”と呼ばれるイケメンキャラで、実際本人にも性別に関するこだわりはないと言います。『「ジェンダーレス」って、そのままいえば性別がないってことだと思うんですけど、ファッションとか見た目だけでなく、私は中身も無性別。体は女性だし、かといって男性とも違うっていうのがあって悩んでた時期もありました』。この写真を見ていると、女性なのか男性なのか見る側の価値観を揺り動かす力があります。人を惹きつける美とは、両極にある価値観の間を振幅するものなのかもしれません。シェイクスピアの『マクベス』で3人の魔女たちがこんな言葉を発する場面があります。「きれいは汚い、汚いはきれい」。常識という自分を縛るものを疑ってみると、世の中はすこし違って見えてきます。そんなことを考えさせる写真です。

TOKYO VOICEとワコールがコラボして、中山咲月さんを起用してムービーを制作しました。『We are BeaTiful.』をテーマにしたムービーは以下のサイトで公開中です。
https://www.wacoal.jp/wearebeautiful/

無名人のスナップ写真こそTOKYO VOICEだ

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
Photo/Kikuchi Yoshimi

TOKYO VOICEの編集方針のひとつに、「有名無名を問わず同等に扱う」というものがあります。そして時として、とてつもなく素晴らしい無名人に出会えることがあります。そんな写真をVOL.7からご紹介しましょう。厨房に立つこのおじさん、31年前に中国から来た毛さんです。目黒で中華料理店を経営していて、毎日元気に中華鍋を振っています。この笑顔! いつわりのない素晴らしい笑顔! これだけでこのおじさんが好きになれます。スナップ写真というのはフォトグラファーが切り取るものですが、撮影のテクニックを超えてその人の魅力が輝かないと、本当にいい写真にはなりません。そんな無名人のスナップ写真をもう1点紹介して、「極私的傑作リスト」を終えたいと思います。最後の写真はタクシードライバー。僕が松尾スズキだったら、今すぐ舞台に上げたいほどのキャラの濃さに惹かれます。VOL.7までのバックナンバーはすべて公開されているので、ぜひあなたの「極私的傑作リスト」を作ってみてください。

TOKYO VOICEの創刊編集長が数日間悩みに悩んで、ようやくセレクトした「この写真にはやられた!極私的傑作リスト」
Photo/Kikuchi Yoshimi

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